FIP(猫伝染性腹膜炎)

FELINE INFECTIOUS PERITONITIS (FIP)

猫の飼い主の為のFIP
(猫伝染性腹膜炎)に関する情報

Dr. Stephanie Sorrell, Prof. Severine Tasker, Dr. Sam Taylor,
Dr. Emi Barker, and Prof. Danielle Gunn-Moore

FIPって何?

FIPは猫伝染性腹膜炎とも言いますが、本当に厄介な病気です。
猫コロナウイルスによって引き起こされます。COVID-19と同じ分類に属していますが、全く異なるものです。
猫コロナウイルスは猫にのみ感染し、人に感染ことはありません。

かかりつけの獣医師は、血液検査、尿検査、眼科検査、胸部・腹部レントゲン検査などのいくつかの検査を行います。
もし胸部や腹部に浸出液が見つかれば、それを採取し検査することはとてもFIPの診断に役立ちます。異常を示す臓器からのサンプル採取の為の追加検査が必要となるかもしれません。例えば肝臓、腎臓、腹部リンパ節に針を刺してサンプルを採取することもあります。

FIPの診断を確定する検査は、関連した異常や病変がFIPに一致した上で、猫コロナウイルス自体の存在を見つけるものです。
免疫組織化学検査(生検サンプルを用います)や免疫細胞化学検査あるいは免疫蛍光染色(IF)検査(浸出液サンプルあるいは肝臓、腎臓、リンパ節のような臓器からの針生検サンプルを用います)がこれらの検査にあたります。
もしあなたの猫が神経症状(発作をおこすあるいはふらふら歩くというような)持っているのなら、脳の画像診断(MRI)のような更に詳しい検査や脳脊髄液を採取することが必要となるかもしれません。
FIPの診断を確定するサンプル採取は、通常、採取することが猫の負担となる為(全身麻酔や手術が必要となるので)、獣医師はしばしば、より簡単に得られる情報や検査に基づきFIPの診断を試み、それらだけで出来る限り確信できる診断に近づくようにします。
例えば、あなたの猫の年齢、品種、病歴(避妊去勢、転居、シェルターからの引き取りのような最近のストレスとなるような出来事がFIPを発症の確率を増やすことがあります)、臨床症状(例えば腹部や胸部の液体の貯留)、高タンパク血症、肝酵素や炎症マーカー(例えばAGP-1)の上昇などの血液検査の異常を見つけることにより診断に近づくようにします。
もし浸出液が存在すれば、あなたのかかりつけの獣医師はその液体をサンプルとして得ようとします。
そしてその液体にFIPと一致した所見(多くが麦藁色でとろりとした粘ちょう性があります)があるかを調べるでしょう。
その後、その液体の中にFIPが存在するかを調べるために検査センターにそのサンプルを送ります。
この診断検査は、肝疾患、他の感染症、癌のなどのFIPと間違えやすい他の疾患と鑑別するためにとても重要です。

もしFIPの疑いがあるなら、確定するために多くの検査を実施する必要があります。
それらをおこなってもFIPの診断が難しいこともあります。しかし、FIPの抗ウイルス治療がとても長期にわたるということ、そして治療費が高額になるということより、獣医師が治療を始める前に確定診断に近づけ、FIPと確信することは重要なことなのです。
更に、FIPでない猫への不適切な抗ウイルス剤の使用は、耐性コロナウイルス発現の問題を起こす可能性があります。
これはFIPに感染した猫がこれらの新しい抗ウイルス剤療法に反応しなくなってしまうことを引き起こします。

どの検査がFIPの診断に役立たないか?

血清抗体価検査

多くの猫が猫コロナウイルスに感染しており、抗体価の存在はただ単にコロナウイルスに暴露したことを示すだけで、そのコロナウイルスがFIPであるかは示していません。

実際に、重度のFIPの猫の一部では、FIPの病気の過程で抗体が“使い尽くされる”とその抗体価レベルは低値あるいは陰性となります。

 

糞便サンプルによる検査

多くの猫はコロナウイルスに感染し、便中にそれを排出するため、これも役立ちません。すなわちFIPの猫とFIPでないコロナウイルスに感染した猫の区別がこれでつけらないのです。

以前はFIPをどのように治療していたか?

FIPに対する過去の治療は効果的ではありませんでした。
診断をされたのち、ほとんどの猫は亡くなってしまうか、安楽死が選択されました。
ステロイド、インターフェロン、プロペントフィリン、ポリプレニル免疫刺激剤などのような数多くの異なる治療が試されましたが、ほとんどの研究が結果の良くないもので、長期的に効果のある治療と言えませんでした。

抗ウイルス剤における画期的な研究

アメリカの先駆的な猫の専門医でありウイルス学者であるDr. Pedersonは2018年にある研究を発表しました(Pederson et al 2018)。
それによるとGS-441524という抗ウイルス薬が猫コロナウイルスの増殖を阻害し、FIPの猫の治療に安全で効果的でした(眼病変と神経学的異常のあるFIPはこれには含まれていませんでした)。

この研究によると、GS-441524の注射薬で12週間以上、治療された26頭のうち25頭がFIPから回復したようにみえました(1頭は結果的にはFIPとは関係のない心臓の問題で亡くなっています)。
2019年のDr. Pedersenのグループによる追加研究(Dickinson et al 2019)によると、GS-441524は神経症状のあるFIPの猫の対しても高用量を使用することで効果的であることがわかりました。

これらのPedersenの研究がおこなわれるまでは、FIPに対し長期間の生存が認められ、完治の可能性を示すような薬物は見つかっていませんでした。
最近の研究では、GS-441524の経口薬による治療も効果があることが示されています。

認可されていないGS-441524製品が流通してしまったため、多くのブラックマーケット製品がインターネットで購入できました。
これらの製品は非常に高額であるばかりでなく、これらの製品には正確にどのぐらいの薬剤の量が含まれているのか分からず、危険な恐れがありました。 世界中の多くの国で、獣医師がこれらの製品を違法に購入し、飼い主がこれらの製品を猫に違法に投与しています。

どんな治療薬が現在、合法的に利用することができ、どのぐらい効果があるのか?

GS-441524(錠剤としての経口薬)とその注射薬であるレムデシビル(静脈あるいは皮下注射で投与)が現在、FIPの猫の為の抗ウイルス薬として、2021年8月以降、イギリスにおいて発売された“特別な”調合薬として合法的に利用することが出来るようになっています。
最低の治療コースとして12週間が必要とされるので、治療期間が長く、費用が高額なものとなります。
また必ず治療が成功するとは保証されておらず、再発した場合には繰り返しの治療が必要になることがあることを充分に知っておくことが大切です。
更に、投与される抗ウイルス剤の用量は、治療中に体重が増加したらそれに合わせて増量されなければならないので、それが治療費にも影響します。
必要な抗ウイルス剤の用量はFIPのタイプにより異なります。
神経症状や眼症状のあるFIPでは高用量が必要となります。そのことがまた費用に影響します。 飼い主としては、抗ウイルス薬を確実に猫に投与する必要があります。そのことが長期間、治療をおこなうことを難しくするかもしれません。

オーストラリアの獣医師は、イギリスの獣医師よりも経口薬のGS-441524と注射薬であるレムデシビルを数か月先に利用できており、オーストラリアとイギリスの両方で我々は現在のところ1500頭以上の猫を治療してきています。
それでもまだ多くの調査が現在も進行しており、現在のところ、治療の成功率は驚異的な85%以上で、少なくとも12週間の治療を続けると反応が見られ、長期にわたる改善へとつながります。
12週間の治療中はもちろん、治療後にも猫をよくモニターすることが必要で、かかりつけの獣医師はあなたに必要なモニター(定期的な検査、体重測定、血液検査など)をアドバイスするでしょう。

もしあなたが助けを必要とする場合、
何をする必要があるか?

 

かかりつけ獣医師があなたへの助けの最適な場所となるでしょう。
FIPの治療はチーム医療であり、あなたとかかりつけ獣医師があなたの猫の為に最善を尽くすことになります。
FIPの抗ウイルス薬は新しい薬剤ですので、猫専門医チームがメールによるヘルプサービスを獣医師に対して提供しています(fipadvice@gmail.com)。
もしFIPを疑うケースの診断や治療に関して必要があれば、獣医師にヘルプサービスにメールするように頼んでください。

直接診察していない猫を獣医師が治療やアドバイスすることは違法です。
それなので猫専門医チームへメールする場合には、その獣医師が猫を直接診察していなければなりません。
申し訳ありませんが、飼い主の方が猫専門医チームから直接アドバイスを受けることはできません。

猫コロナウイルスはFIPと
どのように異なるのか?

猫コロナウイルスはFIPと同じものではありません。猫コロナウイルスは世界的に猫でよく見られるウイルス感染症で、特に多頭飼育で多く、キャッテリー/猫ブリーダーの猫の90%以上、そして1頭飼育の猫の50%以上で認められてたと報告されています(Hartmann 2017)。
猫コロナウイルス感染症は通常、猫において臨床症状を全く示さず、消化管の細胞で増殖するため、時々、軽度の下痢を起こすかもしれません。特に若い猫で起こりやすくなります。猫の体の外の環境でも乾燥した状況下で7週間まで生存することができますが、通常の洗剤や消毒剤により簡単に死滅します(Kennedy and Little 2012)。

猫コロナウイルスは通常、臨床症状を全く起こしませんので、この感染症に関しては過度に心配する必要はありません。
しかし感染したごく少ない割合の猫で、猫コロナウイルス感染がFIPに変化することがあります。
これは猫コロナウイルスの遺伝情報が変化(変異)した時に起こると信じられており、そしてその猫の免疫システムがFIPの発症することを防ぐことが出来なかったときに、FIPを引きおこします。

どんな猫がFIPを発症するリスクが最も高いか?

コロナウイルスがなぜ、一定数の猫にこの恐ろしい疾患を引き起こすように変異してしまうのかはわかっていません。
しかしリスクが高くなる要因して以下のものがわかっています。

  • 2歳以下。通常は3-16か月齢。
  • ブリーダーからの猫
  • 多頭飼育の猫
  • 雄猫の方がわずかにリスクが高い

FIPはどのように表れるか?

FIPの検査

あなたの猫にFIPの可能性があるかどうかを調べる為に、どの検査が適切であるかは、かかりつけの獣医師に判断してもらうのが一番良いでしょう。
FIPはとても多くの異なる症状を示す為、沢山ある検査の中でどの検査が適切であるかを一言でいうことは不可能です。
組織サンプルには通常、侵襲的な手技(例えばリンパ節切除あるいは生検)が必要である為、FIPの診断を完全に確定することは難しいということを理解することも大切です。

 

この文章はFIP advice team が飼主用に作成したFIP pet owner brochure FINAL V2 (icatcare.org)を翻訳したものです。